シリーズ初の連続CGドラマ『BIOHAZARD:Infinite Darkness』の制作でGPUクラウドレンダリングを活用!Quebicoの展望とは
シリーズ初の連続 CG ドラマ『BIOHAZARD:Infinite Darkness』を手掛けたCGアニメーションスタジオQuebico株式会社(以下、Quebico)。制作にはAMD社が提供するRadeon ProRenderと、当社モルゲンロット株式会社のクラウドレンダリングサービスRender Poolを活用いただきました。
フルCGアニメーション制作において、品質とコストに大きな影響を与えるレンダリング。Quebicoテ クニカルスーパーバイザーの小堀 剛氏とAMD社開発チームの吉村 篤氏にインタビューをおこない、CGアニメーション制作現場でのレンダリングの展望をお聞きしました。
貴社の事業内容について教えてください。
小堀 剛氏(以下、小堀):当社Quebicoは『バイオハザード:ヴェンデッタ』を始めとするフル3DCG長編アニメーション、及びハイエンドゲームムービーなどの制作を手掛けてきた現代表の宮本佳が、新しいスタイルのフル3DCG映像制作を模索するために2017年に設立したまだ新しいスタジオです。蓄積された映像制作のナレッジと独自で開発したクラウドベースの制作基盤を武器に、これまで大手のスタジオでしか制作し得なかったハイエンドのフル3DCGアニメーションを国内外の優秀なクリエーターとのコラボレーションで作り上げていくスタジオです。
『BIOHAZARD:Infinite Darkness』はどのような体制で制作されたのでしょうか?
小堀:本作では、単に3DCG部分の制作を請け負うのではなく、株式会社トムス・エンタテインメントと共同で制作プロダクションとして、脚本の開発から制作に参加し、プリプロダクション、ポストプロダクション含め作品制作全体を弊社で担当させて頂きました。3DCG制作部分においては、弊社スタッフがこれまで経験を積んできたハイエンド、長編映像制作ナレッジと独自開発のクラウドベースの制作パイプラインを国内外のスタジオやフリーランスアーティストに展開してコラボレーションするスタイルで制作を行いました。
今までの映像制作と違う点、難易度が高かったことなどありましたか?
小堀:過去にフル3DCGアニメーションとして映像作品化されたバイオハザード作品の中では、全編の制作を担当したスタジオとして、当社は最も小規模なスタジオだと思います。過去の作品においては、比較的規模の大きなスタジオが、制作ボリュームの大半を社内のリソースで担当していたのではないかと思います。
当社のような小規模なスタジオが、制作の中枢を担うことはチャレンジングな試みでしたが、会社や国の枠に囚われず、常に作品制作に見合ったメンバーと制作に取り組みたいという弊社の基本思想と、映像制作のナレッジ共有と制作パイプラインの展開、そして参加してくれたスタジオやアーティストの力が嚙み合って機能した結果、当初目指していたクオリティ以上の絵に仕上がっているのではないかと思います。
特に苦労した点はありますか?
小堀:当社はソフト的、つまり人的な面でも、ハード的、つまりインフラ的な意味でも小規模なリソースしか社内に持たないため、計画にはない追加リソースが急に必要になった際に、社内ですぐに調達できません。綿密なリソースプランを立てても、実際には計画通りにいかない点が出て来てしまうものですが、そういった事態に対応しにくいことは欠点ですね。
追加のリソースが緊急に必要となった場合、早急に調達ができないことはスケジュールの遅れやコスト増大につながります。当社のような体制を成立させるには、より綿密な管理とプランBの用意が必要になると思います。
映像制作にあたりレンダリングは制作時間やコストにどのような影響を与えていますか?
小堀:レンダリングは制作の後半工程であるため、他の工程の影響を受けやすく、計画外の対応が発生しやすくなります。レンダリングのためのマシンリソースが不足した場合、クラウドレンダリングサービスを利用することが有力な選択肢になってきます。
しかし、ランニングコストだけで見ると、クラウドレンダリングはオンプレミスのマシンレンダリングに比べて割高になることが多いので、当初はオンプレミスのマシンレンダリングとレンダリングマシンリソースを所有している協力会社に、ライティングとレンダリングを一括で担当して頂くことの二つの方法を柱に、大半のレンダリングボリュームを賄う計画でした。
自前でレンダリングリソースを持っていないフリーランスアーティストや協力会社の場合、もしくは、計画したリソースでまかないきれない場合にクラウドレンダリングを利用することが多いですね。今回は、AMDさんの御協力でレンダリング用の機材をお借りすることができ、オンプレミスのリソースとして利用できる処理能力を増強することができて、コスト面で大変助かりました。
AMD社のProRenderを使用されましたが、どのような感想を持たれましたか?
小堀:GPUを利用したレンダリングはポピュラーになってきましたが、CPUとGPUでのレンダリング結果の一貫性という点においては、AMD社のProRenderは一歩先を行っていると感じます。
CPUレンダラーによるプリレンダリング作品制作に慣れ親しんでいることもあり、以前は、GPUで高品質な絵ができるのか懐疑的でした。今まで使用してきたレンダラーではGPUでレンダリングした場合に使い物になる絵を出すことが難しいと感じていました。
『バイオハザード:インフィニット ダークネス』では、フォトリアルをベースにした絵作りが要求されましたが、ProRenderではGPUとCPUを併用したレンダリングで、その要求に応えながら効率的かつ高品質な映像制作を実現できました。
ProRenderは、CPUレンダラーをベースにしてGPUレンダリングを取り込み、GPUでもCPUと同じ絵ができることを目指していると理解しています。一方、近年大きく発展を遂げているリアルタイムグラフィックス技術でも、ハードウェアの進化により、今までプリレンダリングでしか実現できなかった表現が可能になりつつあります。より高品質な結果をより効率的に産み出すという点では、両者の目指すものには共通点があり、これらが競い合うことで、レンダリング技術の進化が加速していくのではないかと期待しています。
映像制作におけるレンダリング用のデータはサイズが大きく、エラーや警告が完璧に除去しきれなかったり、当初は想定されていないデータ構成のものが出てきたりするものですが、今回はAMDさんにご協力頂き、制作と並行して、不具合や機能追加などのパッチを迅速に提供頂いたことで完成に漕ぎ付けることができました。
吉村 篤氏(以下、吉村):CPUレンダリングとGPUレンダリングの一貫性を合わせるのは現時点でも非常に難しいです。アップデートにより差は縮まりつつあるものの、技術力の高い開発者が実施しても差が出るのが現状のレベルです。
小堀:計画外のレンダリングパワーが必要な場面など、時間の優先度が高いときはクラウドレンダリングを利用することになります。一方で、コスト面から主力として利用するには厳しい部分があります。今回は、AMDさんを通してサポートを得られたこともあり、クラウドレンダリングを活用した制作を試すことができました。
また、ランニングコストは割高であっても、当社のように外部と提携しながら制作する体制、小規模なチームならば、高額なマシンを準備するコストと比較して優位性が生まれるケースが多くなると思います。
コスト以外の評価ポイントとしては、データの扱い方があります。レンダリング・ジョブのためのデータ準備と、クラウドへのアップロードがストレスなくできるサービスでないと使えません。その点も、Render Poolではストレスなく進められたと思います。
オンプレミス・マシンレンダリングとクラウドレンダリングサービス、それぞれのメリット、デメリットと感じているところを教えてください。
小堀:当然ながら、オンプレミスのマシンレンダリングの優れているところは、ランニングコストの低さです。
クラウドレンダリングサービスはランニングコストの面で不利ですが、初期投資がほとんどかからず、ハードウェアのメンテナンスが不要であることが強みです。プロジェクトの規模、期間、チーム編成と作業環境の構成によって、トータルでのコスト差が縮まってくるケースが増えると思います。
また、必要とされるキャパシティに対して柔軟にスケールすることが可能である点もクラウドレンダリングの強みだと感じます。
プリレンダリング、リアルタイムレンダリングの使い分けはどのようにされていますか?
小堀:従来、映像制作においてはプリレンダリングが主流でしたが、徐々にリアルタイムレンダリングの活用が広がってきました。スピードが求められる制作現場を変革しつつあると思います。
時間をかけてクオリティを追求できる点がプリレンダリング手法の強みですが、リアルタイムレンダリングによって「十分に」高品質な結果が得られる場合も増えてきました。
どちらの手法もより「高品質かつ高効率」な方向に進化しているのは同じです。当社でも、今後の映像制作では、リアルタイムレンダリングを制作手法として活用したり、表現の手法としても積極的に活用したりしていきたいと思っています。
エンジニアの立場として、レンダリングの課題はありますか?
小堀:レンダリングのクオリティと計算コストをコントロールするパラメータ設定を最適化して、プロジェクト全体でレンダリングリソースを最適に配分することの難しさです。
クリエイティブな側面において、アーティストやチームの得意/不得意というものがありますが、それとは別に、効率的なレンダリングを行うスキルにもばらつきがあるものです。効率的なレンダリングのための最適なパラメータ設定については、エンジニアリング面でサポートできる面もまだまだ残されていると考えています。
また、レンダリングコストの最適配分を実現するには、ステージによるデータの重たさの違いや、キャラクターやショットの作品全体における重要度といった、定量化が難しいものを俯瞰的に可視化することが必要になってくると思いますが、それもあまり進んでいません。現状では、効率的レンダリングのスキルを持たないチームが、そのスキルを持つチームが省力化した計算量を食いつぶしてしまうということが発生しうる状況だと考えています。
レンダラーによって異なるパラメータ設定とクオリティ/計算コストの関係性を把握するには時間がかかります。その関係性が把握しやすく、結果の予測もしやすいという特性を持つことは、レンダラーにとって競争力を高める要素なのではないでしょうか。
最後に、今後期待する機能について教えてください。
小堀:品質/ランニングコストの向上を前提として、レンダリング管理機能の充実には期待したいです。タスク間の優先順位、「素材Aの前に素材Bの処理が終わっていることが必要」といった依存関係がビジュアル的に把握できるとベストです。
オンプレミスのレンダリングファーム用の、豊富な機能を持つレンダリングマネージャーに慣れている多くのユーザーがいますので、クラウドレンダリングサービスのウェブベースのインターフェースの機能に物足りなさを感じているユーザーもいると思います。
また、データ構成とフォーマットも大きなテーマです。プリレンダでもリアルタイムでもデータの在り方を考え抜くことで、効率化可能な余地が残っていると考えています。
私たちは、最終結果を見るにはレンダリングが終わるのを待たなければならない、という考えに慣れていますが、仮にレンダリング時間がゼロになったとすると、状況は全く変わってしまうでしょう。それによって、作品そのものだけでなく、作品作りのあり方も変わっていくのではないでしょうか。
編集部より
外部パートナーとのコラボレーションによって、これまで大手のスタジオでしかなし得なかったハイエンドのフル3DCGアニメーションの映像制作を実現するQuebico。今後は、GPUレンダリングやリアルタイムレンダリングを取り入れることで、作品に応じたベストなチーム編成のための制作基盤を進化させていきます。
Render Poolはクラウドレンダリングによって、あらゆる規模・体制の組織の高品質な映像制作をサポートしていきます。