【取材】トムス・エンタテインメント社とRenderPool™の共同開発プロジェクト


by Render Pool

6月 21, 2020

モルゲンロット株式会社(以下、当社)は株式会社トムス・エンタテインメント様と共同でRender Pool向けソフトウェア(シーン・アッセンブルソフト)の開発を行っています。

そこで、当社とトムス・エンタテインメント様の取り組みについて紹介すべく、2020年6月にご担当者の2名に取材を実施しました。

  • 株式会社トムス・エンタテインメント デジタル推進室長 伊東 耕平さま
  • 同 Visual Effects/CGI Read Supervisor 高野 怜大さま

トムス・エンタテインメントについて

トムス・エンタテインメント

まずは、株式会社トムス・エンタテインメント様の概要ついてお伺いしました。

貴社の事業内容を教えていただけますでしょうか?

(伊東)当社は「アニメーション製作事業」「映像ライセンスビジネス」「コンテンツビジネス」を軸に展開するア二メーションの総合プロデュース会社です。

代表作には『名探偵コナン』、『アンパンマン』、『ルパン三世』などがあり、他にもさまざまなアニメーション作品を手掛けています。
また、コンテンツビジネスも展開しており、グッズ販売も当社のWebショップで行っています。

事業内容について

トムスグループの子会社には、アニメーションを総合的に制作している株式会社テレコム・アニメーションフィルム(以下、テレコム・アニメーションフィルム)などがあります。

私はこれまで、テレコム・アニメーションフィルムでプロデューサーを務めてきましたが、3年前にトムス・エンタテインメントに出向して、デジタル推進室長(現在はデジタル推進部長)となりました。

このデジタル推進室では、デジタル技術を活用してアニメーション制作を効率化させるための取り組みを行っています。

 

実は、現在も日本のアニメーションは紙と鉛筆で手描きをして制作しています。

この事実をお伝えするとみなさん驚かれるのですが、私たちからすれば当然のことです。

まだ紙を使用するアナログの世界なのです。

 

近年、アニメーションにおいてもさまざまな映像表現が注目を浴びるようになりましたが、そこにはCGをはじめとしたデジタル技術の活用が必要不可欠となっています。

今は、昔ながらのアナログな作り方と、コンピューターを使った最新の表現を共存させていくことが求められています。

 

その最も効率的な制作方法の実現に向けて、私の部署がさまざまなことに取り組んでいる状況です。

この業界には中小企業が多いですから、さほどコストをかけずにクオリティの高いものが作れる環境を実現すべく、調査・研究を行っています。

Render Poolとの関わり

Render Pool

続いて、当社とトムス・エンタテインメント様が共同でサービス開発を行うに至るまでの経緯について伺いました。

当社、Render Poolを知るきっかけはどういったことだったのでしょうか?

(伊東)アナログからデジタルに移行する、つまり紙からデジタル作画に移行するにあたり、AMDのスタジオサポートということでPCのご協力をお願いしたところからです。

現在、子会社のテレコム・アニメーションフィルムには、アニメーターが30名から40名ほどいます。

そちらにPCを導入するご協力をいただき、その際にRender Poolをご紹介いただきました。

課題として感じていらっしゃったのはどういった点だったのでしょうか?

(伊東)例えば、近頃のアニメーション作品では、爆発の際の煙や炎といったエフェクトに加え、キャラクターもCGで作っている作品が増えてきていますよね。

つまり、現在のアニメーション制作においては、「手描き」と「3DCG」の工程が共存しているわけです。

 

以前、私がプロデューサー、高野が3DCGディレクターで同じ作品を制作していた際に、この手描きと3DCGの連携でとても苦労した経験がありました。

そもそも2Dと3Dのアニメでは考え方が異なりますし、作業の時間軸も異なります。

私たち2Dの人たちからすれば、CGはすぐに制作できるイメージがあります。

しかし、CGの人たちからするとそうではないわけです。

 

このようにかみ合わない点を解消し、2Dと3Dを効率的につなげ、本来一番時間をかけたい映像表現に力を入れられるようにデジタル技術活用すべきだ感じました。

 

アニメーション制作では、最終的に、2Dと3Dの素材をコンポジットします。

例えば、CGの場合、コンポジットの素材を出力するために限られた時間で大量のシーンをレンダリングする必要がありますが、そこまでの作業効率と生産性の向上をどのように実現するかが課題となりました。

 

私たちは現在その課題解決に取り組んでいますが、私たちのような小規模なチームにおいては、レンダーのためのサーバー室をつくるわけにはいきません。

そうなると、「クラウドを利用してみる」ということが一つの選択肢となったわけです。

Render Poolとの取り組みについて教えてください。

(伊東)私たちは、さまざまな3DCCツールを使用するため、取り扱うファイル形式もさまざまです。

そのため、それらを最終的にどこかで一度編集するツールが必要です。

つまり、Render Poolでレンダリングする前に、きちんとクオリティを確認できるものが必要ということになりました。

そのため、AMDの森本さまを含め、中間ツール的なものを開発しましょうという流れになり、当社とMorgenrotさんで開発を行っているところです。

 

(高野)さまざまなソフトから出力されたものをアセンブルするような「シーン・アッセンブルソフト」を共同で開発している段階です。
各種フォーマットをどのように扱うのかについても検討しています。

各種フォーマット

(伊東)私たちのチームは、受発注を行うスタジオとして機能して実証制作も行っているため、レンダリング後にデータを納品する必要があります。

同じような業務に携わる人たちにとって有用なツールを作っていきたいと思っています。

 

(高野)現状は、ローカルで各社のシステムエンジニアが立てたサーバーをお借りするような状況です。

その場合、速度感を数値化することができません。

 

発注側としては、明確な金額提示をしてもらえるような安心できるサーバーが欲しいと思っているのです。

より良い作品、より多くの作品を提供する上で、金額は明確化するべきところだと思っています。

 

また、世界に勝っていくためには、常に新しいハードウェアでレンダリングしたいということがあります。

そこに協力していくために、Morgenrotさんと共同で開発を行っている状態です。

 

当社は映像・フィルムメーカーなので、それをきちんと分散して処理できるシステムの起こし方、それがMorgenrotさんが開発しているRender Poolです。

そういったところでディストリビュートがしたかったというところですね。

時間の見えるレンダリングで、「コスト」「クオリティ」を担保してくれているサービスだと思っています。

当社は管理ツールとしてRender Poolは優れたツールだと思っています。

(高野)お金の管理面でとても優れていると思っています。

クライアント側がポイントをMorgenrotさんから購入し、そのポイントを各協力会社さんに振り分け、このポイント内でレンダーできるとなると、発注側のお金の使用用途が明確化できるようになります。

この点がすごく良いですね。

他のサービスの場合、使用時間に基づき後日請求される形ですが、Render Poolの場合は先にポイントを購入できる点が素晴らしいと思っています。

今後のビジョン

共同でソフトウェア開発中のソフトウェアに関して業界の抱えている課題、そしてそれを解決していくための想いについて伺いました。

レンダリング時間や作業効率の改善に限らず、アニメ業界における業務改善がテーマですよね。

(高野)クオリティを高めようと思ったら、海外のスタジオみたいに自社でレンダリングサーバーを立てた方が良いですよね。

しかし、そうではない商用としてのフィルムを制作する場合は、お金の管理を明確にしたいところですね。

 

(伊東)ある程度スケジュールを担保しながら制作していくことはもちろん必要ですが、終わりが見えるようになるため、きちんと計画を立てられるようになります。

また、「このファイルをレンダリングするには○○ポイント必要」ということがわかれば、どう対応するかも判断することができるようになります。

ファイルのレンダリング

(高野)私がディレクターであれば、レンダリングの期間を決められるようになりますね。

「ここから2週間にはレンダーを回します。これだけのポイントを用意しました。」というスケジュールや予算管理ができるようになります。

 

そして、「アーティストは、そのスケジュールに間に合うように動いてください。」といったように、各協力会社さんやプロダクションマネージャーにお願いできるようになります。

「この日までに仕上げてください。」「レンダリングできる形式にしておいてください。」といった依頼の仕方を明確化することができますね。

また、私たちがクラウドレンダリングのポイントを管理しているため、今回制作した作品でのコスト管理ができるわけです。

 

(伊東)会社は、制作するものの本数によって、1年間のレンダリング予算を把握できるようになります。

私たちも現在調査・研究中ですが、実際どれぐらいの予算感になるのか把握していく必要があります。

業界的にコストを削減することができて、良いものを導入できるきっかけにさせてもらえれば良いなと思っています。

(高野)CGが使われていたときに、「レンダリングが間に合わなかった」「やり直しがきかなかった」といったことがしばしば発生します。

それは、各スタジオの経験に依存しているからであって、さまざまなものが数値化されていないことが原因なんですよね。

 

そのため、私たちがいまMorgenrotさんと開発しているツールが世間に浸透していけば、より良い制作フローやスケジュール、やり直すことのできる回数や箇所をもっと明確化できるようになります。

そういう考え方が浸透していけば、より働きやすい業界を作ってけると思っています。

Render Poolの画面

(伊東)そうですね。

2Dといういわゆるトラディショナル、アナログなやり方をしてきた私たちも、デジタルの力、CGの力を使いこなして管理していかなければならないタイミングに来ています。

アニメーションを見る人たちの目も肥えてきているため、職人、アニメーターのスキルは生かしつつ、CGでフォローしながら良い作品をつくっていくことがこれからは求められると思います。

アニメーションで世界に勝っていくためにはどういうことが必要だと思っていますか?

(伊東)世界のアニメーションという枠で見れば、日本のアニメーションは一つのジャンルでしかないわけです。

その中で、まだ日本は世界に対してリードしている部分があるとは思っていますが、中国・韓国などでも日本と遜色のないクオリティのアニメーションが出てきています。

そこに対して何か差をつけられるかというと、正直難しい局面に来ていると思っています。

 

では、日本は何で勝っていけるのかと言えば、日本人独特の感性・表現力かもしれません。

緻密な部分を計算して表現できるということが、日本人に唯一残された武器だと思っています。

作品の質やアイデアは、もうどこの国だからというのは関係ない時代に入っていると思っています。

また、海外勢と戦っていくためには、いかに海外に向けて発信しようとするかという姿勢が重要だと思います。

 

(高野)私も、世界に発信できるチャンスを日ごろから逃していると強く思っています。

「日本だけで流行れば良い」というキャラクターやストーリー設定なので、世界に勝つとか勝たない以前の問題以前に、マインドを打破していきたいですね。

インタビューを受けた2名

(伊東)近頃は、東南アジアなどの国への進出も増えていて、CG会社が東南アジアに子会社を作るという話も珍しくありません。

一方で、日本では、中国が元請けで日本が下請けという形態も当たり前になっています。

 

そうなったときに、私たちは元請けとして少数精鋭でクオリティの高いものを海外の人たちと一緒に作っていくことも考えなければなりません。

そういったときに、世界が持っていない技術を日本が武器として持っているというようになれば良いですね。

トムスさんと一緒にRender Poolを世界に通ずるアニメ業界のツールにできればベストですね。

(高野)そうですね。

世界中の人たちに見てもらえるコンテンツを生産性良く作っていくためには、しっかりとしたレンダリングサーバーが必要なのです。

中小企業のレンダリングサーバーだけでは世界と渡り歩くことはできないわけです。

産業構造が古いので変えていくべきところが多い気がしますね。

(高野)そうなんですよ。

産業という言葉を使うのであれば、産業革命に近いです。

 

例えば、馬が主流だった時代に、誰も自動車なんて欲しがらなかったわけです。

ところが、より遠くへ確実に行きたいというニーズから車が登場する。

そして、蒸気機関車ができてどんどん生産性が高まっていった。

そういったところに近いことをやっているイメージですね。

今後の日本

技術力やアイデアは、もう日本が世界の中で抜きんでているという状況ではなくなりました。

Netflixが起こした産業革命によって、私たちは世界各国のアニメーション、つまりアイデアを容易に見ることができるようになりました。

 

一昔前までは、ヨーロッパの映画を全部見ることなんて不可能でしたよね。

しかし、いまでは海外ドラマであっても全部簡単に見ることができる時代になりました。

 

東南アジアの場合、映画は日本に来なければ見ることさえできなかったわけです。

ところが、私たちより下の年代である20代の人たちは、世界どの国でもNetflixを通していとも簡単に見られる時代になりました。

 

そのため、どの国に住んでいようと、受け取るアイデアやコンテンツには差がほとんどなくなりました。

したがって、作品を制作するときに世界各国と対峙していかなければならないわけですが、その際に日本に圧倒的に足りていないものは生産性だと思っています。

その土俵を整えたいという想いで、いまMorgenrotさんとプロジェクトを動かしているわけです。

 

現在、RPR自体の質、Radeon ProRenderはフィジカルなものや物理的・現実的なものに特化していますが、スタイライズの表現やコミック調といったものも取り入れていき、さまざまなスタイルの作品を生産性良く制作できるようにしていきたいですね。

 

(伊東)今後、私たちが作品で表現するにあたっては、技術者の方々とコミュニケーションをしっかりと取っていかないと、世界には太刀打ちができません。

海外の場合はそういう技術者の方が独自のツールを作ったりしていますが、日本はそういった技術者を抱えることができていないのです。

そうなれば、同じマインドを持った人たち同士が集まって実現していくしかないのです。

どうしても作品がクローズアップされがちですが、どちらかというと作品を作るためのツールをどうやって自分で作っていくかが重要です。

 

また、実例を示すことが重要で、「この作品はこのシステムを使って制作された」ということを知らしめることができれば、”逆輸入”が好きな日本人が「これは使えそうだ」と思ってくれるかもしれません。

「この映像はこういったコスト・期間の中で制作できた」ということを示さないと、納得して使用してもらうまでには至らないでしょう。

 

あとは、考える時間や作業を楽しむ余裕を生まないといけないですね。

機材の心配をしながら作業するのではなく、クリエイティブなところに力を注げるような環境を作ることができればベストですね。

 

(高野)そうですね。

日本はクリエーターの環境整備をもっと進めていくべきだと思います。

Render Poolが世界に勝つにはどういった機能が必要だと思いますか?

(高野)生産性を上げられるような機能でしょうね。

作業効率を上げるというイメージでしょうか?

(高野)いえ、作り出すべき時間が見えるようにするところですね。

Radeon ProRenderは「.rpr」ファイルという特殊形式なんですよね。

GPUレンダーはCPUレンダーと違ってブレがありますが、そのブレを抑えるために「.rpr」という形式が作られました。

そこを売りにして世界に認知してもらいたいところです。

 

そこから出力されたものはクリエーターの自由です。

安定性、そしてさまざまなアートのスタイルができる素材を出せるレンダラーであるというところが一番重要だと思います。

 

(伊東)実際に制作する人たちのニーズ、また発注元としてさまざまな会社に制作を依頼しなければならないニーズに対して答えられるものを現在一緒に開発しているところですね。

まとめ

当社と株式会社トムス・エンタテインメント様で共同開発しているソフトウェアに関して、トムス・エンタテインメントの2名にインタビューをさせていただきました。

日本のアニメーション業界の抱える課題や、どのようにしていけば解決していけるのか、そして世界と戦っていくために日本はどのようなことをしていくべきだと考えているのか、その想いを感じ取っていただけたのではないでしょうか?

 

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当該ソフトウェア(シーン・アッセンブルツール)の公開予定は2020年8月の予定です。

当社ホームページ及びプレスリリースにて告知させて頂きます。